生は歌声と共に:Duets
Duets 忙しい毎日に流されながらその日その日を精いっぱい生きている6人が、ひょんなことからペアとなり、一つの目的地へと向かう。目的地はオマハ。ネブラスカ州にある人口約35万人ほどの街である。そこで行われるカラオケ大会に到着するまでにそれぞれの人生において忘れがたい出来事が起こる。作りはちょっぴりB級だが超スーパー級のハートが詰め込まれたカラオケ・ロードムービー「デュエット」で歌われる曲は名曲揃い。そんな名曲たちを映画のストーリーと一緒にご紹介しよう。

● Ricky と Liv の"絆"さがし
オクラホマ → ネバタ → カンザス → ネブラスカ・オマハ

テキサスのバー。"At This Moment"を熱唱するRonny (Lochlyn Munro) はここらじゃ月1000ドルを稼ぐKARAOKEキング。それを聞いていたRicky (Huey Lewis) はRonnyを挑発してカラオケ勝負で賞金を得る。ここでRicky は Joe Cocker "Feelin' Alright"を熱唱し、会場を盛り上げている。Joe Cocker といえば、すばらしい作品を世に送り出した生粋のスワンプロッカー。この"Feelin' Allright"は1968年に発売されたJoe Cocker の1st album、"With A Little Help from My Friends"に収録されている佳作。このアルバムには後にツェッペリンを一躍有名にするJimmy Page, またSteve Winwood などが参加しており、音楽ファンには必聴の作品でもある。しかしちょっと細かなことをいうと、この"Feelin' Alright"、オリジナルはCocker ではなくTraffic なのだ。Trafficといえば、Steve Winwood が結成したバンド。個性の強いメンツが集まったため、短命に終わった伝説のバンドでもある。彼らが1968年に発表した2nd album、"Traffic"に収録されている"Feelin' Alright?"がオリジナルとなっている。こちらのアルバムも傑作といわれるほどのすばらしい出来。さて、こんな名曲をひょうひょうと歌い上げるRicky はさすがだ。Ricky 演じるHuey Lewis はご存知の通りHuey Lewis & The News のヴォーカル。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のテーマ曲"The Power of Love"で有名になったバンドで、彼らのアルバムもキャッチーで個人的には気に入っている。

その日の晩、ラスベガスにいる元恋人?(妻?)が亡くなったという電話を受けたRicky はラスベガスへと飛ぶことに。そしてそこで偶然にも再会したのがまだ見たことがなかった自分の娘、Liv (Gwyneth Paltrow) である。Liv は自分の父親との再会を冷静に受け止めながら、今まで別々に過ごした時の狭間を埋めようと、カンザスで開催されるカラオケコンテストに向かう父親を追いかけていく。さて、当のRicky は急に出会った娘との再会にたじたじ。そしてカンザスのバーで披露するLiv の歌声に驚くのだった。ここでLiv が披露する曲は"Bette Davis Eyes"(「ベティ・デイビスの瞳」)。往年の名女優ベティ・デイビスの瞳の美しさになぞって作られた曲。Kim Carnes がヒットさせた曲で、1981年に初めてチャートNo.1を獲得してから合計9週首位を獲得している。とにかくすばらしいロッカーであり超クール。この曲の前まではわりと大人しい曲が多かったが、この曲で一気にロッカーとしてのイメージを確立する。さて、この曲のオリジナルはJackie DeShannon という女性ソングライターによって書かれた。残念ながら、自身のタイトルで発表した作品はそれほどヒットしていないようだが、他人に提供した曲はヒットするという。。。自身も"What The World Needs Now Is Love"や"Put A Little Love In Your Heart"(私のお気に入りでもある)などをヒットさせている。"Bette Davis Eyes"は1975年のアルバムに収録されている。それにしてもGwyneth Paltrow の歌声には驚かされる。プロ顔負け!なかなか声も良く、単なるお嬢様とは一味も二味も違った。

カンザスのカラオケ大会で優勝し、オマハで行われる全国カラオケ大会の出場権を取得する。賞金は何と5000ドル!今までにない賞金。Ricky は久しぶりに勝負をかける。Ricky と共にオマハへやってきたLiv は、ふとしたことから母親がいつも歌っていた曲を口ずむ。その曲はSmokey Robinson "Cruisin'"。1980年にヒットしたRobinson の名曲である。父親との距離を少しでも縮めようとがんばるLiv だが、人との付き合い方がわからないRicky はどうしても上手く自分を表現できない。すれ違いが続く2人はコンテストで"Cruisin'"をデュエットする。カラオケを通してやっと心を通わせることが出来たのだ。この曲は名曲だけありさまざまな人がカバーしていると思われるが、最近ではD'Angeloのデビューアルバム"Brown Sugar"でもカバーされており、なかなかの仕上がりとなっている。


● Todd とReggie の"自分"さがし
テキサス + ユタ→ニューメキシコ → ネブラスカ・オマハ

Todd (Paul Giamatti) は毎日出張でへとへととなったサラリーマン。ほとんどを空港のホテルで過ごしているような会社員だ。プライベートな時間もなく、たまに家に帰っても家族にも無視される始末。そんな中、自分を失ったTodd は、ふと車に飛びのリ、ドライブに出る。ニューメキシコで立ち寄ったホテルでたまたまカラオケ大会が開かれていた。みんなが夢中になるカラオケって一体なんなんだ?目を輝かせてステージで歌を歌う一人の女性を見て、自らもカラオケにチャレンジしようと舞台に立つ。人前で歌えるのだろうか。"Hello It's Me"が流れ始める。カラオケ初体験のTodd は気がつくとまわりのお客からは拍手、そして自分自身のパワーに驚く。我を忘れ、精神安定剤とビール片手に再びぶらぶらとドライブに出発する。この曲はTodd Rundgren のヒット曲。1968年にNazz名義でリリースしたアルバム「Nazz」に収録されており、後にソロでも同曲をリリースしてヒットさせている。バーの女性が選曲してくれたのだが、Todd つながりでこの曲を選んだとしたらなかなかイキではないか。

ヒッチハイクをしていたReggie (Andre Braugher) を途中で拾い、彼をシカゴまで届けようとドライブを続けるTodd。途中、再びカラオケを楽しもうとバーに立ち寄る。しかしその日は何やらデュエット・デー。ちょっと戸惑うが、優勝するとオマハで行われるカラオケ大会の出場権がもらえる・・・それを聞いた途端やる気が沸いてきたのか、"Try A Little Tenderness"に挑戦。Reggie と共にステージへと上がり、Todd とReggie の見事な掛け合いでバーは盛り上がる。それにしてもこの曲を選ぶなんてよほど歌唱力に自信があったんだろう。オリジナルは不滅のソウル・マン、Otis Reddingが歌っており、永遠の名曲である。Otis は26歳の時に若くして飛行機事故で他界してしまったが、今でも彼の功績は伝説で、ArethaやLittle Richardsなど現役でがんばっているシンガーにも深く影響を与えていることであろう。私の記憶では「コミットメンツ」の中でもこの曲が歌われている。この映画も名曲揃いで、歌唱力がまたすばらしい。

今まで心の奥底に眠っていた自分が生き返ったと思い込み、暴走するTodd と、その原因は自分にもあると思い始め、自分という存在を見つけ出せなくなっていくReggie の2人はオマハへと向かう。そしてデュエットで参加しようと考えていたTodd だが、妻の登場で混乱し始める。自分は一体何を求めているのか。自分とは何なのか。最後のステージはReggie が飾る。コンテストなんてどうでもいい。自分は歌うことしか出来ない人間なんだ。それが取り柄で、それが人生とでもいうように、偶然知り合い数日間を共にしたTodd に"Free Bird"を捧げる。

「もし僕が明日にでも去るとしたら、君は僕のことを覚えていてくれるかい。僕はこれから旅に出る。いろいろなところを見るために。もし僕がこのまま君と一緒にいても、今までと同じようにはいられない。僕は今自由になった鳥のようだ。鳥は変わらないし、変われない。僕は変われない。それは神様も知っていることさ・・・。」


● Billy と Suzi の"誰か"さがし
オハイオ → ミズーリ → ネブラスカ・オマハ

神を信じ、誠実なクリスチャンとしての道を歩むと信じていたBilly (Scott Speedman) は、知り合いとタクシー会社を共同経営していた。しかし知り合いと自分の妻の浮気が発覚し、信じていたものが次々と崩れ落ちて行き、路頭の迷ってしまう。そこへやってきたのがSuzi (Maria Bello)。カラオケ命のSuzi は、人生をやり直そうとカリフォルニアを目指す。Suzi はバーで見かけたBilly を道連れに、カリフォルニアまでのドライブへと誘う。女性という武器を持ち、Suzi は確実にカリフォルニアを目指していた。

しかし、体を安売りするSuzi を見て、Billy はSuzi に対して本当の自分を受け入れろと訴える。自分では見とめたくない「自分」という存在をずばり言い当てられたSuzi は、Billy に激しい怒りを感じる。またBilly はそんなSuzi を見ることで、今まで逃げていた自分自身の人生について考え始める。2人がケンカした日、Suzi は初めてBilly の前で歌声を披露する。スポットライトの下、"Can't Make You Love Me"を切なく歌い上げるSuzi は、今までBilly が見ていた彼女とは違い、繊細で美しい女性だった。1991年、Bonnie Raittがアルバム"Luck of the Draw"で取り上げて有名になった名曲である。この頃のRaittは波に乗っており、1989年に続いて2度目のグラミー賞も獲得している。またこの曲はCandy Dulfer の"Sax-A-Go-Go"にも収録されており、こちらも落ちついたサウンドで楽しめる。

ミズーリのカラオケバーでオマハでのカラオケ大会出場権を手に入れたSuzi。ここまで来たらオマハへ行くしかない。ピンク色に塗装したBilly のタクシーで目的地へと向かう。本番間近。優勝賞金はなんと5000ドルというのだから、誰もが緊張することだろう。Billy は会場で知り合ったLiv と共にSuzi の出番を待つ。しかしSuzi は自分の出番になっても現れない。心配になったBilly は会場を後にし、Suzi を探し回る。そしてトイレの片隅にうずくまっているSuzi を見つけるのだった。弱い自分をさらけ出せず、強がっていたSuzi だったが、本番直前のプレッシャーに耐えられなくなったのだ。Billy の言う通り、自分は負け犬なのだと・・・。しかしオマハまで来たのだ。決勝で歌わないわけにはいかない。自分をさらけ出した2人は会場へと向かう。赤いドレスに身をまとったSuzi はEurythmics"Sweet Dreams"を熱唱する。説明する必要もないくらい有名な曲で、Eurythmicsの代表曲である。彼らはヴォーカルであるAnnie Lennoxの出産を機に、一時期活動休止していたが(解散したのかな?)数年前に再結成し、アルバム"Peace"をリリースしている。


● 抜け目のないサントラ
以上、劇中歌われた曲についてご紹介したわけだが、劇中歌われている曲はすべてサントラに収められている。映画が終わってもまだまだ楽しめるのがエンディング。エンディングで流れる"Just My Imagination (Running Away with Me)"はBabyface と Gwyneth Paltrow が歌っており、The Temptationsのカバーでもある。1971年全米1位のヒット曲で、後にストーンズもカバーをしているほどの曲。「アリーmyラブ」の中でもVonda Shepardがカバーしているので知っている人もいるかもしれない。劇中華麗に歌声を披露したGwyneth が最後の最後まで楽しませてくれるこの映画、さすが監督はGwyneth の父親だけある。デュエットシーンは鮮明に焼きついただろうか。デュエットとはまさに人生であり、人生誰かがいないと生きていけない。。。そんなメッセージのある作品・・・だと思いたい。(笑)