井秀清&寺井尚子:Hidden Passion
○ Shusei Murai Group Live Report


ここ5,6年、音楽を聴いて鳥肌が立ったことはあったが、震えが来たことは久しくなかった。それが去年、偶然にもすばらしいアーティストと出会うことが出来た。名前は村井秀清(むらいしゅうせい)、そして寺井尚子(てらいなおこ)。彼らの、ミュージシャンとしてのポリシーとプライドにはえらく感動させられ、また楽曲中に迸る情熱を目の当たりにし、久しぶりにぶるぶると震えてしまった。彼らはすでに名の知れたミュージシャンだが、それまでJ-Jazz/Fusionに興味のなかった無知な私はやっと彼らの音楽に出会えた。この「偶然」を逃していてたら、きっと私は音楽で感動することなど忘れかけたことだろう・・・。

去年は年明け早々仕事の出張で札幌と関東の行き来が多かった。そして10月から長期出張という過酷な(!?)指名を受け、平社員のクセに文句なんぞぶーぶーいいながら関東へと向かったのだが、偶然にも関西の同期も数人関東出張していたため、ある日彼らと合流して中華街へと繰り出した。中華街で美味しい飲茶を食べた後(シウマイと焼きビーフンがめっちゃ美味しかった〜!)、友人の一人がたまたま買った雑誌に載っていたJazz Barに行かないかと言い出した。音楽が大好きな私としてはもちろん興味あり!Jazz Barなんて聞くと、オシャレな格好をしてカクテル片手に・・・というイメージを持っていたため、お酒を飲まない私はちょっとドキドキだったが(しかもジーンズだったし・・・)日曜日の午後だし大丈夫かな、などと楽観的に考えてみんなでBarへと向かった。そしてその日、そのBarでたまたま演奏したのが村井秀清率いるバンドだったのだ。

Jazzをライブで聴くのはかれこれ6年ぶり。かなり胸を弾ませた。関内にある「エアジン」というそのお店はJazzを聴くためにあるようなところで、お酒を飲まなくても全然平気だった。お店の雰囲気も私にはしっくり来たし、とってもいい感じだ(まぁ一度入るまでは結構勇気が必要かも(笑))。Barに着いた時はバンドメンバーがまだリハーサル中だった。リハを見られるなんてかなり貴重な体験〜。オケのリハさえ見たことないのに!(笑) 出だしから非常にラッキーで、ますます私の胸は高まる。さて、時間になってさっそく演奏がスタート。演奏は2回に分けられていて(2ステージというらしい)、間に15〜30分くらいの休憩が入る。入れ替えはないのでずっと聴きっぱなしでOK。その日の演奏はほとんどが村井秀清のオリジナルで、数曲スタンダードあり、といった感じだった。1曲目からJazzを弾き始めたのだが、普段CDなどで聴いているモダンJazzとはちょっと違う。重た〜いシリアスなモダンではなく、初心者の私にも分かりやすいものだったのがうれしい。そしてついに運命の出会いの瞬間。2曲目、村井秀清のオリジナルを聴いた時、突然ぶるぶると体が震え始めた。ものすごく私のタイプ!(笑) 村井秀清の持つアイデンティティがいきなり私の耳を直撃した。予期せぬ出会いに胸が高鳴った。久しぶりに震えのくる音楽に出会えた私はそれだけでも満足。一人体をぶるぶる震わせながら聞いていた私に友人たちは気づいていたかどうかは知らないが、決して変な奴と思わないでほしい(いや、かなり変・・・(笑))。その日以来、それまで熱が冷めかけていたJazzに対して再び興味が沸いてきた。

そのライブのMCでちらりちらりとJ-Jazz界の話が出てきた。全然知らない名前ばかりでちょっと悔しかったので、日本のJazzを聞いてみようと興味を持ち始めた。まずなにかCDを購入してみようと思ったのだが、何も情報がなかったため何を買ったらいいのやら・・・。そこでまたまた運命的な出会いが!上記のライブから数週間後、秀清さんのメインバンドであるInfinite Circleのライブに足を運んだのだが、そのバンドのドラマーの演奏がすごく気に入ったので、彼についてネットで調べてみた。彼の名前は藤井摂(ふじいせつ)。この方もJ-Jazzを聞かれる方なら誰もが知っているほどの人気ドラマーなわけだが(私ってほんと無知・・・(T-T))、ちょうど彼が最近参加したJazz CDが発売になったという宣伝をHPで見たので、よし、これを買ってみようとCD屋へと向かった。そしてそのアーティストというのがジャズ・バイオリニストの寺井尚子だったわけである。

発売されたばかりなので視聴できるようになっていたのでさっそくヘッドフォンを着けてPLAYを押してみる。1曲目のイントロがゆっくりと始まる。ジャズ・バイオリンといえばなんといってもステファン・グラッペリを思い出す。彼の演奏はすばらしく、また曲調も華やかなものが多いのだが、演奏自体はどこか哀愁ある弾き方で、これまた味がある。。。しかし寺井尚子のCDを聞き始めると、想像していた曲調とちょっと違い「あれ?」と不思議な感じが。。。そして短いIntroが終わり本格的に1曲目がスタートしたら、がつーんと度肝を抜かれた。バイオリンでこれだけ迫力のあるJazzを演奏できるものか!ぶるぶるぶる・・・。あ、また震え。店頭で視聴しながらぶるぶると震えていた私はかな〜り怪しかったことだろう。(笑) しかしあれほどの演奏を聞かされたら、震えを押さえるのはかなり難しい。手にとっていたCDの曲目を見ていると2曲目に"Be Bop"が・・・。え?こんなのをバイオリンで?さっそく2曲目も聞いてみたのだが、これまたさらに度肝を抜かれる。"Be Bop"といえばトランペッターであるDizzy Gillespieの曲であり、私もArturo Sandoval(彼も有名なキューバ人トランペッター)の"Be Bop"しか聞いたことがないため、バイオリンでの演奏はとても想像できなかったが、他の楽器と全く引けを取らない堂々たる演奏で、バイオリンの可能性を想像以上に引き出している。たった2曲聞くだけでもバイオリニストとしての存在を確立している彼女のそこ知れないパワーに驚いた。当然この"All For You"という新譜も即買い。「リベルタンゴ」なども収録されており、選曲的にも話題性に富んでいる。クラシックの基礎をしっかりと受けた彼女ならではの技巧的な演奏がまたすばらしい。それにしても、同じ年齢からバイオリンを始めてこんなにも差が広がるものなのかと、とほほな気分にもなる。(笑) またどうでもいい話だが、使用している楽器もなかなかのもので、特に弓は非常にいいものを使用しているだろう。

そんなこんなで、偶然出会った村井秀清から寺井尚子へとつながり、そして今なお新しいミュージシャンとの出会いが続いている。音楽を少なからずかじった(もちろん趣味としてだが)自分はいつも思うのだが、音楽は人の心をつなげる。聞く側も弾く側もいろいろな出会いがあり、そしてそれが世界中の人の心をつないでいく。時として人の人生観さえも変えてしまうからものすごい力だ。「音楽は私の命」と豪語してはいるものの、実際には心を揺さぶられる音楽に出会うのは非常に難しく、最近は特にそれを痛感していた。しかしそんな矢先に思わぬところで出会えた彼らの世界と情熱にとても感動し、またパワーもいただいた。もし世界のどこかでこのつたない文章を読み、彼らの音楽に少しでも興味を持ったら、ぜひ聞いてみてほしいと思う。体が震えるかどうかはわからないが(笑)、2人の音楽に秘められた絶対的な情熱は間違いなく伝わるはずである。



関連リンク
村井秀清 : 秀清さんのオフィシャルサイト。ライブがほんと面白い!
寺井尚子 : 寺井さんのオフィシャルサイト